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#03

現代の旅籠料理 | 一年の暦 |

2026-07-13

甲州街道の宿場町、台ヶ原。

江戸のころ、旅人が草鞋を脱ぎ、囲炉裏を囲み、酒を酌みかわした場所です。

宿場 esoto は、その記憶を今に受け継ぐ、一日一組の文化屋敷。

ここでお出しするお食事を、私たちは「現代の旅籠料理」と呼んでいます。

宿場町の卓が、旅人の一夜に土地の恵みを差し出したように。

台ヶ原の水と米、季節の食材、そして三百年続く七賢の酒を、現代のしつらえに落とし込み、ひと組のお客様のためだけに整える。

その営みが、私たちの考える現代の旅籠料理です。

本稿では、その旅籠料理が一年をどのように巡っていくのか、暦とともに辿ってまいります。

十二の月には、それぞれの節句と行事があり、その日、その季節にしか味わえない一皿があります。

どうぞ、これから始まる一年のたよりの、はじめの頁としてお読みください。

THE TASTE OF A POST TOWN

台ヶ原宿、酒とともに旅を憩う場所

宿場 esoto のお食事は、旅籠料理人による、こんな語りから静かに始まります。

本日はお越しいただき、ありがとうございます。

台ヶ原宿は、江戸時代に整備された甲州街道の宿場町のひとつです。

宿場町にはそれぞれ役割があったとされており、ここ台ヶ原宿は、お酒を楽しむ宿として親しまれておりました。

ですから本日は、お料理に、うちのお酒を合わせてご用意しております。

お酒とお食事、どうぞご一緒にお楽しみくださいませ。

― 旅籠料理人・宿場 esoto

「うちのお酒」とは、1750年創業の日本酒ブランド・七賢のこと。

甲斐駒ヶ岳の花崗岩層に磨かれた伏流水と、地元で育てられた酒米。

その一杯を卓の真ん中に据え、季節の食材を、無理のない仕立てで寄り添わせる。

宿場 esoto の卓は、そんなふうに整えられていきます。

SOBA ROAD AND SHARED TABLE

蕎麦街道と、ひとつの鍋を囲むこと

コースの途中、器の中に蕎麦が現れる夜があります。

そのとき、料理人はこう添えます。

甲州街道は信州につながる街道で、
蕎麦街道とも呼ばれておりました。

また、鍋の湯気が立ちのぼる夜には、こんな一言が。

旅籠料理では、囲炉裏の上に鍋を吊し、
ひとつの鍋を皆で囲んでおりました。

そんな風景を、現代ではカウンターを囲み、
お一人ずつの小鍋へと昇華させています。

ひとつの土地の歴史を、ひとくちの温度に置き換える。

それが、宿場 esoto の旅籠料理の姿勢です。

TWELVE MONTHS AT THE TABLE

十二か月の食のたより

宿場 esoto では、その月にしかない節句や行事を、八寸や一皿の中にそっと織り込んでいます。

一月から十二月まで。

それぞれの月に、旅籠料理人が語る、季節のたよりの断片をご紹介いたします。


睦月|一月

正月の八寸

新年のはじまりを寿ぐ、縁起の八寸。

黒豆は、まめに暮らせるように。
海老は、腰が曲がるまで長生きできるように。
数の子は、子宝に恵まれるように。

ひとつひとつの食材に、来る一年への願いを託して盛り込みます。

〈料理例〉
黒豆 / 海老 / 数の子 / 縁起の八寸


如月|二月

祈年祭と、立春朝搾り

春の耕作始めにあたる二月十七日、宮中や全国の神社では、その年の五穀豊穣を祈る祈年祭が営まれます。

十一月の新嘗祭と対をなす、米づくりにとって大切な行事です。

また、立春の日には、全国の酒蔵で「立春朝搾り」が仕込まれます。

その日の早朝に搾り、神社でご祈祷を受けてから出荷される、無病息災を願う酒蔵の行事。

米と酒。
二つの祈りを、ひと皿に。

〈料理例〉
大豆 / 山菜


弥生|三月

桃の節句

三月三日、五節句のひとつである上巳の節句。

節句とはもともと、香りの強い植物で、身体の邪気を祓う行事です。

ひな祭りも、本来は女の子だけの日ではなく、無病息災と厄除けを祈る日でした。

桃の花を白酒に浮かべて飲めば、健康になれると信じられていたそうです。

身体に溜まった邪気を、そっと払っていく卓を。

〈料理例〉
菱餅 / 蛤 / 白酒


卯月|四月

春祭り

かつての春祭りは、今のようなお花見や催しとは異なり、その多くが五穀豊穣を祈る神事でした。

田んぼの神様は、冬のあいだ、山の神として山にこもっていると考えられていました。

春の暖かさとともに山から降りてくる、その神様を出迎えるための行事です。

山からの恵みを、卓にお迎えします。

〈料理例〉
筍 / 山菜 / 蓬


皐月|五月

八十八夜

立春から数えて八十八日目、八十八夜。

暦のなかった時代には、この日を目安に、お米の種蒔きや田植えが始められました。

酒造りにとって、お米は何よりも大切なもの。

はじまりの季節を、緑の香りとともに。

〈料理例〉
抹茶胡麻豆腐 / 新茶


水無月|六月

夏越の祓

年に二度、全国の神社で行われる大祓。

そのひとつ、夏越の祓は六月三十日に営まれます。

神事における日本酒は、神様への最上の供物。

神と人とが同じ飲食をともにすることで、絆を深めていく大切な存在でした。

これから訪れる暑さを、清らかにお過ごしいただくために。

〈料理例〉
水無月豆腐 / 小豆


文月|七月

夏祭り

浴衣、出店、花火。

今日の夏祭りは華やかですが、その起源は少し異なります。

農作業が本格化するこの時期、疫病退散と、秋の五穀豊穣を祈願する神事として営まれていました。

衛生環境が整っていなかった江戸時代以前、夏は疫病や台風、害虫の災いが多い季節。

それらを神の怒りと考え、鎮めるための祈りが、祭りのはじまりでした。

今年も、酒になるお米が、
秋に豊かに実りますように。

〈料理例〉
笹巻き / 素麺 / 夏野菜


葉月|八月

お盆と盆踊り

お盆は、ご先祖様の供養を目的とした行事とされ、盆踊りはそこから派生して生まれたと言われています。

一方、明治時代までは神仏習合の文化があり、お盆は同時に、秋の収穫を神様に前祝いする神道的な意味も持っていました。

翌月から、いよいよ酒米の収穫が始まります。

豊作を祈り、夏の実りとともに。

〈料理例〉
蓮 / 鬼灯 / 茄子 / 胡瓜


長月|九月

観月祭 ― 十五夜

中秋の名月の夜、収穫への感謝を神様に捧げる観月祭。

宿場 esoto の田んぼでも、早稲品種の刈り入れが始まる頃です。

日本酒にとって、お米は何よりも大切なもの。

その背景に広がる、米作りと酒造りの営みごと、月の光の下でお楽しみください。

〈料理例〉
稲穂 / 芋 / 月見の一皿


神無月|十月

神嘗祭、日本酒の日

十月中旬、伊勢神宮では最も重要な祭事のひとつである神嘗祭が行われます。

その年に収穫された初めての新米を、天照大御神へ捧げる、収穫感謝の行事です。

その折に供えられる四種のお酒。

白酒、黒酒、醴酒、清酒。

これらが無事に醸造されることを祈念する御酒殿祭が営まれる十月一日は、全国の酒蔵で仕込みが始まる**「日本酒の日」**でもあります。

〈料理例〉
稲穂 / 新米 / 鮑


霜月|十一月

新嘗祭

十一月二十三日、宮中祭祀のなかでも特に重要とされる新嘗祭。

天皇陛下が、その年に収穫された新穀をお供えになり、無事に収穫を迎えたことへの感謝と、翌年の豊作をお祈りになる行事です。

お米は古来、神様からの授かりものとされ、日本酒は、そのお米から生まれるもの。

酒蔵にとっても、心を尽くす祭事です。

宿場 esoto の母屋は、明治天皇御巡幸の折の行在所。

2020年の新嘗祭より、七賢が御奉納をさせていただいております。

〈料理例〉
新米 / 稲穂 / 白酒


師走|十二月

年越しの大祓

十二月三十一日、全国の神社で営まれる、年越しの大祓。

知らず知らずのうちに犯した罪や穢れを清め、新しい年を、清らかな心身で迎えるための静かな行事です。

皆様が、良き年をお迎えになれますように。

その願いを込めた卓を整えます。

〈料理例〉
蕎麦 / 黒豆 / 海老


暦とともに巡る食卓

宿場 esoto の食卓に並ぶのは、急ごしらえのご馳走ではありません。

白州の自然。
三百年の醸造。
節句とともに歩んできた、日本の暦。

そのすべてが交わる場所に、ひと皿が置かれます。

同じ月に訪れても、去年と今年では、しつらえが少し違います。

旬の食材が違えば、その日の空気も、酒の顔つきも変わっていく。

だからこそ、宿場 esoto の卓は、暦とともに巡り続けるのです。

次号以降の Letter では、この十二か月をさらに一つひとつ深く辿り、その月ならではの食材、器、そして酒との対話を、丁寧にお届けしてまいります。

台ヶ原宿から届く、季節ごとのたより。

その日を、どうぞ楽しみにお待ちください。


宿場 esoto / 台ヶ原・白州

Letter vol.03
現代の旅籠料理|一年の暦